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2025.12.26

シリーズ(第3回):企業ガバナンスの実効性を高めるために(三つの視点)

執筆担当 弁護士 三木憲明

第3回 業界別傾向とベストプラクティス

  1. はじめに

  制度の選択(監査役会制か監査等委員会制か)と、その運用思想(代替的経営者観)は、企業の事業特性や市場環境によって最適解が異なります。
本稿では、主要業界ごとの傾向と、試行的ではありますが、それぞれで有効に機能していると思われるベストプラクティスを思い切って整理してみます。
  単なる制度比較ではなく、「どの制度を、どう動かすか」という実務の絵姿を描くことが目的です。

  1. 業界別傾向分析
  1. 業界別ベストプラクティス

金融・保険

  • 制度面:監査等委員会制で取締役会の議決権を活用し、規制対応やリスク案件に早期関与
  • 運用面:内部監査部門との直通ルートを制度化し、監査等委員会議事録にリスク評価を明記
  • 代替的経営者観の実装:規制動向を踏まえた条件付き承認やリスク許容度の見直しを主導

製造(重工・インフラ)

  • 制度面:監査役会制を維持し、常勤監査役が現場と経営を橋渡し
  • 運用面:品質・安全監査の定例化、重大案件の現場同行
  • 代替的経営者観の実装:現場知見を活かした投資判断の条件付けや工程是正

IT・通信

  • 制度面:監査等委員会制でM&Aや資本政策に早期関与
  • 運用面:取締役会内での監査独立性を守るため、社外委員比率を高める
  • 代替的経営者観の実装:成長戦略とリスク管理の両立を意識した是正提案

不動産・建設

  • 制度面:監査役会制で案件ごとのリスクを現場から吸い上げ
  • 運用面:案件開始前レビューと進捗監査をセット化
  • 代替的経営者観の実装:現場情報を基に契約条件や安全対策を是正

小売・サービス

  • 制度面:海外展開や多店舗展開企業は監査等委員会制を選択する傾向
  • 運用面:店舗・顧客接点からの情報を監査機関に直接集約
  • 代替的経営者観の実装:顧客クレームや品質データを戦略修正に反映

流通(卸売・小売・物流)

  • 制度面:大規模・国際調達型は監査等委員会制を選択し、サプライチェーン全体のリスク監督を強化。地域密着型は監査役会制を維持し、現場密着の監査を重視
  • 運用面:取引先リスク評価や物流拠点の安全・品質監査を定期化し、その結果を取締役会と監査機関の双方で共有
  • 代替的経営者観の実装:サプライチェーン全体の透明性を高め、異常検知時には迅速な是正措置を主導。海外調達先や多層下請けの監査プロセスを標準化

エネルギー・資源

  • 制度面:監査役会制または三委員会制で長期投資と規制対応を監督
  • 運用面:安全・環境監査の専門チームと連携
  • 代替的経営者観の実装:規制変更や環境リスクを踏まえた投資条件の是正
  1. 共通の成功要因
  • 制度と運用の一体設計:制度選択時に運用像まで描く
  • 情報アクセスの確保:内部監査・現場・経営の三方向から情報を集約
  • 是正プロセスの明文化:条件付き承認や改善期限を明確化
  • 人材の質と継続性:制度よりも人材の力量が実効性を左右
  • 文化との適合:組織文化や意思決定スタイルに合った制度・運用設計
  1. おわりに

  業界ごとの傾向はあくまで参考にすぎません。
  最終的な制度選択と運用設計は、自社の文化・人材・事業特性を踏まえたオーダーメイドであるべきです。
  制度編・運用編・本稿の業界別分析を三位一体で活用し、「器」と「中身」がかみ合ったガバナンスを構築することが、持続的な企業価値向上への近道です。

シリーズクロージング

  制度の枠組みは、あくまでガバナンスの「器」にすぎません。
  その器にどのような人材を据え、どのような情報ルートと是正プロセスを設計するか──そこにこそ、実効性の差が生まれます。
  制度編で見た制度選択の論点、運用編で示した代替的経営者観の思想、そして業界別編での傾向分析とベストプラクティスは、別々のテーマではなく相互に補完し合うものです。
  制度と運用の両面から、自社の文化や事業特性に合った「運用の絵姿」を描き、継続的に磨き上げていくこと。それが、真に機能するガバナンス設計の出発点であり、到達点でもあります。

 

シリーズ第1回「監査等委員会設置会社への移行をめぐる実務的考察こちら

シリーズ第2回「代替的経営者観──監査役等の新しい役割像」はこちら