執筆担当 弁護士 鈴木伸太郎
1 遺留分制度について
民法は、被相続人の意思を尊重しつつ、近親者の生活保障を目的として、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属といった一定の法定相続人(兄弟姉妹を除く)に対して、法定相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の1/3、それ以外の場合は法定相続分の1/2の割合の相続分を最低限保障しています。これを、遺留分といいます(民法1042条)。
したがって、遺言によって、以上に挙げた法定相続人が、遺留分を下回る金額しか取得できないような場合には、当該相続人は、遺留分を侵害している他の相続人に対して、遺留分侵害額請求権を行使することができます(民法1046条)。なお、2019年の相続法改正により、遺留分侵害額請求は、金銭のみ請求できることになっています(2019年7月1日以降に発生した相続が対象です)。以下、具体的なケースを見ていきましょう。
2 具体的に問題となるケース例
【CASE1】
遺言者Aには、妻Bがおり、子どもは長女C、次女Dがいます。長女C、次女Dは、共に自立して実家を出ており、Aは、今は妻Bと二人で暮らしています。長女Cは、よく実家に来てくれていますが、次女Dは、以前にAと喧嘩をしてから、長年一切連絡もありません。Aの所有する財産は、価値が2500万円の土地建物(AとBが住んでいる実家)、預貯金が1500万円あるとします。
そこで、Aは、妻Bに引き続き実家で暮らしてもらうため、不動産を妻Bに相続させ、預貯金は実家によく来て身の回りの世話をしてくれている長女Cに相続させたいと考え、その内容で遺言を作成しました。
- この場合、遺留分が生じるでしょうか。
本件の法定相続人は、配偶者Bおよび子C、Dの3名です。法定相続分は、配偶者が1/2、子C、Dが各1/4となります(民法900条1号)。この場合の遺留分は、法定相続分の1/2になりますので、Dには、1/8(1/4×1/2)の遺留分があります。なお、本ケースでは、生前贈与等の特別受益はないものとします。
この場合、次女Dの遺留分額は、実家と預貯金の総額4000万円 × 1/8 = 500万円となります。
本件では、妻Bと長女Cにのみ遺産を渡すという内容の遺言になっていますので、遺言どおりに相続が行われた場合、次女Dは、取得財産がないため、500万円の遺留分があることになります。したがって、次女Dが遺留分を主張すれば、遺された家族間で紛争が起こってしまう可能性があります
⑵ では、遺言によって、この遺留分を発生しないようにするには、どのような記載にすればよいでしょうか。
例えば、不動産を妻Bに、預貯金のうち、1000万円を長女Cに、500万円を次女Dに相続させるという内容の記載しておけば、次女Dの遺留分を侵害したことにならず、次女Dから妻B及び長女Cに対して、遺留分侵害額請求がされることはないということになります。
3 まとめ
上記の例は、非常にシンプルなケースになりますが、実際は、預貯金が遺言作成時から一切変動しないということは考えにくく、不動産の評価額も変動しますので、遺言時と相続開始時の財産が同じではないという問題があります。また、現実には、遺言者が、株式を所有していたり、複数の不動産を所有していたりと、財産の種類や数も様々であることが多いです。さらに、預貯金が一定あれば、遺産を分けやすい側面がありますが、必ずしも十分な預貯金があるとは限りません。そうすると、先に紹介したケースのように、簡潔な遺言の記載で遺留分侵害を回避できない場合も多く存在します。このように、遺留分侵害による相続人間の紛争を防ぎたいと考えた場合には、どのような内容の遺言とするのがよいかは、非常に難しく、複雑な検討が必要となります。
part2で紹介したように、そもそも遺産の分け方を決めるにあたっては、遺言の記載がとても複雑になることがあります。そのため、相続の場面で遺言者の意思をできるだけ反映させるためには、様々な法的リスクを検討したうえで遺言の作成を行うことが望ましいといえます。弊所では、遺言作成にあたっては、できるだけ遺言者のご希望に沿った相続が実現するように、ご支援をしています。
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