執筆担当 弁護士 鈴木伸太郎
1 はじめに
遺言とは、亡くなった方が遺した言葉のことですが、法律上の遺言とは、自分の死後に効力を生じさせる目的で遺す意思表示のことをいいます。本コラムでは、実務的な観点から、遺言制度について、複数回に分けて説明していきたいと思います。
第1回目は、遺言の種類にはどのようなものがあるのか、どのように作成するのかについてご説明していきます。
2 遺言の種類
遺言には、いくつか種類がありますが、よく使われるものとしては、以下の2種類があります。それぞれの遺言について、内容や必要な手続きについて、説明していきます。
⑴ 自筆証書遺言
ア 内容
自筆証書遺言とは、自分で紙に書いて作成する遺言をいいます。民法では「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められており(民法968条1項)、具体的には、以下の要件が必要となります。
① 「自書」であること
まず、手書きの原本である必要があります。パソコンや電子機器を利用した文字、本人の自筆であってもコピーしたものは、効力が生じません。
② 「全文」を記載すること
全文について、原則として自筆する必要があります。もっとも、令和2年の民法改正により、遺言書と一体のものとして相続財産の目録を添付する場合には、その目録に限り、自筆である必要はなくなりました(民法968条2項)。なお、目録の各ページに署名、押印をする必要があります。
③ 「日付」を記載すること
作成の年月日を正確に記載する必要があります。
④ 「氏名」を記載すること
基本的には、戸籍上の氏名を記載しますが、特定ができるのであれば、通称でも良いとされています。
⑤ 「押印」
実印でなくとも、認印や拇印でも良いですが、サインは認められません。
イ メリットとデメリット
メリットとしては、作成が簡便であることが挙げられます。紙に記載すれば効力が生じますので、作成にかかる労力と費用の面では、メリットがあるといえます。また、令和2年7月から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が導入されており、この制度を利用すれば紛失するリスクもありません。
デメリットとしては、形式的な要件に誤りがあると遺言が無効になるおそれがあります。内容を変更・修正する場合も、訂正箇所を明示し、変更した旨を付記して、署名、押印をしなければならないなど、様式に決まりがあり注意が必要です。また、専門家の関与なく作成できる反面、記載内容が不正確となってしまい、遺言として効力が認められないこともあります。
さらに、遺言の保管者は、遺言を相続開始後遅滞なく、家庭裁判所に提出して、内容を確認してもらう手続きを経る必要があります(これを検認手続きといいます)。この検認手続きを無視しますと、5万円以下の過料の制裁を加えられる可能性があります(民法1005条)。もっとも、上記の新制度により法務局で自筆証書遺言を保管した場合は、検認手続きは不要となります。
⑵ 公正証書遺言
ア 内容
公正証書遺言は、遺言者が公証人の前で遺言の趣旨を述べて、公証人がこれを筆記して作成する遺言をいいます。公証人が遺言を作成しますので、形式的な要件を気にする必要はありません。
イ 手続きの流れ
まず、遺言者が遺言の文案を作成します(自筆である必要はありません)。
文案ができたら、公証役場(全国に所在しており、どこの公証役場でも作成することができます)に、公正証書遺言の作成を依頼します。
担当の公証人が決まると、公証人とやり取りを行い(メール、電話等)、遺言が効力を生じるものになるよう内容を詰めていきます。
内容が確定したら、公証人が清書をしますので、後日、遺言者が公証役場に赴き、口頭での確認を経て、正本に署名、押印をします。その際、証人となる者が2名以上必要です(なお、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は、証人になることができません。)。
これによって手続きは完了し、正本は、公証役場で保管され、遺言者は、謄本を持ち帰ることができます。遺言は遺言者の承諾を得てデータベースにも登録されますので、データ上も保存されることになります。
ウ メリットとデメリット
メリットとしては、公証人が法律の規定にしたがって作成しますので、遺言者の意図した遺言書を比較的正確に作成することができます。また、公証役場にて保管してくれるため、紛失のリスクはありませんし、自筆証書遺言の場合のような家庭裁判所での検認手続きを経る必要もありません。
デメリットとしては、自筆証書遺言とは異なり費用がかかることです。公正証書遺言の費用は、財産の額、相続人の数、遺言の文言等によって算出されることになっていますが、財産が多い場合、費用は高くなります。
また、公正証書遺言の作成には公証人が関与するとはいえ、遺言者目線での法律的な検討が抜け落ちている場合もあり、効力が生じない内容になっているケースも現実に存在しています。
3 さいごに
これまで、自筆証書遺言と公正証書遺言について、それぞれの特徴、手続き、メリットデメリットについて説明してきましたが、どちらであっても、遺言において一番大切なことは、遺言者の意思が死後正確に反映されるような内容とすることです。書き方、分け方如何によっては、遺言自体が、あるいは遺言の記載内容が無効となってしまうことも少なくありません。そのため、ご自分の意思を死後きちんと反映さるために、ぜひ、弁護士にご相談いただき、遺言者の立場に立った専門家の目線での検討を求めてください。
次回、part2では、遺言で行える意思表示などについて、詳しく説明していきたいと思います。