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2024.03.11

非上場(譲渡制限)株式の売買に携わって

執筆担当 弁護士 三木憲明

 私は、非上場(譲渡制限)株式の売り側、買い側の双方から相談、依頼を受けています。そこで、当事者の関心が強い事柄について以下に「すごく正確ではないが、わかりやすく」記そうと思います。

1 株価算定の手段としての帳簿閲覧に関して

 通常は、株主のもとに定時株主総会の通知とともに最低限決算書は届いているはずですが、それだけでは正確な株価算定は困難ですので、株主としては、さらに詳細を知るため、会社法433条の帳簿閲覧権を行使することを考えます。この帳簿閲覧権は、3%の株式を有する株主に認められた権利です。得た情報をライバル会社に売るといった濫用的な場合でない限り、原則として裁判所は帳簿閲覧を許可します。ですから、買い側すなわち会社としては、この帳簿閲覧権に基づく閲覧請求を認めざるを得ない場合に無駄に抵抗して「黒星」を喫するくらいなら早々に開示してしまったほうが懸命です。いたずらに帳簿閲覧を拒絶して、そのことが後に「不誠実な会社だ」といった悪評につながってしまう(裁判官の心証を悪くしてしまう)事態を招く場合もあります。

2 非上場(譲渡制限)株式にかかる投下資本の回収手段に関して

 非上場(譲渡制限)株式に関しては、いきなり株主が「第三者」を立ててその者への譲渡を行いたいので承認せよ、という請求を会社に出してくることは稀です。まずは株主と会社とで任意の買取交渉がなされる場合がほとんどです。この段階で株価についてすんなり合意に達して解決に至る例もあります。その多くは、「時間が経てば経つほど株価が下落するのではないか」といった懸念が株主にある場合です。逆に時間をかけても株価が下がる懸念がない場合(さらに株価が上昇しそうだという場合)は、株主はかなり粘り腰になって「1円でも多く」といった発想になりがちです。しかし、会社としては、株価についての下げ材料を創り出すために業績を悪くするといったことは本末転倒も甚だしいことです。

 不幸にして任意交渉が決裂した場合、残された回収手段としては第三者への譲渡か、これについての承認請求を拒絶されてする会社法136条以下の手続によるしかありません。

 ここでの株主サイドの最大のネックは、そのような第三者を確保することができるかです(会社側の指定買取人としては、代表者又はその関係者となることが大半ですが)。つまり、総額数億円となる株式を買い取ることのできる資力のある人で、かつ真に当該会社の株主になってもよいと考える他人がどれほどいるかということです。翻って、会社側では、株主が候補として出してくる第三者が実在するのか、実在しても本当に買い取る意思を有しているのか(「ためにする」虚偽表示ではないか)疑わしいことが多いようです。しかし、このような疑義を主張として裁判所に提出しても、実務上はほとんど争点にはなりません。なぜなら、裁判所としては、いずれ解決せねばならない問題である以上、その第三者の実態をとやかく問うよりは(実在しない人物というならともかく、そうでなければ)、この機会に正式の法的手続により株価を決定して最終決着に導くほうがベターと考えているからです。

3 株価算定に関して

 株価すなわち企業価値の算定に関する裁判所の考え方の変遷については、最近ことに公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」が出てからは、これに依拠することが通例となっています。さらにいうと、今や企業価値はDCF法を用いることが理論的には正しいというところに落ち着きつつあります。これに対して、過去においては、純資産(時価)法、類似会社批准法、収益還元法(DCF法を含む)、配当還元法のミックスという手法がよく用いられていました。しかし、これはミックスの割合についてどうにも合理的説明ができないという弱点がありました。これに対して、収益還元法の代表格であるDCF法は、その会社が生む将来のフリーキャッシュの集積を現在価値に引き直すという点で非常に明快であり、その妥当性は否定すべくもないので、今はDCF法が主流になっているということです。ただ、DCF法にも課題はあり、事業性評価の妥当性(割引率の設定含む)がその最たるものです。

4 株式譲渡代金にかかる税金に関して

 端的にいいますと、いわゆる金庫株として会社が買い取る場合は総合課税となって高率の課税となりがちなのに対し、社長等の個人が買い取る場合は分離課税となって20%の税率に抑えることができます。

5 弁護士の役割に関して

 ともすると我々弁護士はトラブルが「発火」してからの「火消し」的役割に終始してきた嫌いがあります。もちろん、弁護士の大切なフィールドとして「発火」してしまったトラブルをいかにおさめるかという領域が存在することは否定すべくもありませんが、これからはさらに進んで、どうすれば「発火」を防げるか、つまり致命的な紛争を招かずにそれなりに会社と株主が妥協し合える関係を築いていけるか、そういった未来志向の領域でも、会社及び株主の共通の利益に立った、まさに会社が「公器」としての社会的役目をしっかりと果たしていける、そしてその役目を将来に渡って永続的に果たしていける枠組み作りにコミットすることが期待されているのではないかと思っています。