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2024.03.18

シナジー効果を含む事業価値はどうやって算定するの?

執筆担当 弁護士 三木憲明

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 私が過去に携わったM&A絡みの訴訟で、「この事業の値段を一体いくらと見込んでいたの?」ということが論点になったものがあります。

 会社は株主のものでありながら、社会的存在でもあります。つまり、事業の値段は、売主と買主の都合や思惑だけで決めるものではなく、そこには自ずと客観性が求められるということです。

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 この件では、事業価値についての鑑定が予定されていました。

 鑑定人との打合せの中で、改めてシナジーの算定に関する難しさを感じました。あくまで「見込み」であることから、誰も正確なところはわからないのです。中でも営業シナジーつまり「売上がどれくらいUPするか」はとても測りづらいと鑑定人も言っていました(これに比して、経費シナジーつまり「経費をどれくらいDOWNできるか」はまだ測りやすいとのことです)。

 このように、ただでさえ(紛争関係にない契約当事者間でさえ)困難なシナジーの算定を、訴訟にまでなってしまった紛争当事者双方からヒアリングしつつ鑑定によって行うのは、本当に大変な作業になるであろうことは容易に想像ができます(シナジーに関しては、少なくとも訴訟段階では、紛争当事者相互の見解や契約当時に前提としていた事実の認識が一致しなくなっていることが多いから)。そして、契約の際であれば、公認会計士の算定はあくまで参考程度に用いられ、最終的には契約当事者の合意により事業譲渡価格すなわち事業価値が決せられるのに対し、訴訟における鑑定はそのような参考程度というわけにはいかず、事実上の影響力は絶大ですので、それだけ公認会計士たる鑑定人の責任は重大となります。

 この鑑定の中で事業価値(シナジー含む)の算定に用いられる手法は、もちろん『企業価値評価ガイドライン』(公認会計士協会)に沿ったものであり、おそらくDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法になるだろうと予測していました。DCF法が採られるであろうと予測した理由は、別稿【非上場(譲渡制限)株式の売買に携わって】と題する記事に記したとおりです。

 しかし、結局のところ、本件ではこうした鑑定は実施されず、当事者双方がそれぞれに用意した公認会計士による意見書(いわば簡易な私的鑑定書)をすり合わせる形で和解交渉が進展し、判決に拠らずに解決を迎えました。そこで合意した株価が判決に比して高かったのか安かったのかはもう誰にも検証できませんが、できる限りの知験と論理を用いて妥協可能な和解に至れたことで、依頼者には喜んでもらえたものと自負しています。