執筆担当 弁護士 保木祥史
トラック運転手の業務の実情
トラック運転手は、荷積み、運搬、荷下ろしが基本的な業務となりますが、勤務時間の間常にこのような実作業に従事しているかというと、必ずしもそうではありません。荷積みや荷下ろしの時間は、荷主や元請の配送業者において、指定されていることも多くあります。荷積みが終わってすぐに荷下ろしの目的地に到着すると指定時刻よりも早すぎるような場合には、目的地の近くの場所で待機をしなければならないことがあります。荷積み→荷下ろし→次の荷積み・・・と荷積みと荷下ろしを繰り返すような場合には、荷積み地や荷下ろし地に向かうたびにこのような待機時間が発生することがあります。このような待機時間は、実作業をしていないのだから労働時間には含まれないのでしょうか。
労働時間か休憩時間かの判断基準
判例によれば、法律上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁)。また、その時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができ、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできないとされています(最判平成14年2月28日民集56巻2号361号)。したがって、実作業をしていないからといって直ちに休憩時間とされるわけではなく、その待機時間に業務から離れることを保障されていて初めて休憩時間とされることになります。有名な事例として、住み込みのマンション管理人の仮眠時間について、そのような時間も必要に応じて住人等への対応が義務付けられていたことなどを踏まえ、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできないとして、当該仮眠時間を労働時間と認めた判例があります(上記平成14年最判)。
また、労働時間に当たるかどうかは、客観的に定まるものとされていますので、例えば、会社においては待機時間を休憩時間とすることにしており、トラック運転手もそのような取扱いに同意していたとしても、具体的にその時間に業務から離れることが保障されていない場合には(後述するように休憩可能なスペース等を用意していなかったり、待機時間であっても業務連絡が頻繁にあるような場合には業務から離れることが保障されていたとは言い難いです。)、休憩時間ではなく労働時間と認められることがあります。
トラック運転手の待機時間は労働時間と認められるか
以上のような観点から、トラック運転手の待機時間について考えてみます。
まず、待機時間中、トラック運転手は、自由な移動が認められているわけではありません。道路混雑等も想定して、目的地に時間通りに到着しなければならないわけですから、目的地に近い場所で待機をせざるを得ません。
また、待機のために大型のトラックを長時間停められる駐車スペースは、それほど多くありません。高速道路のサービスエリアのような場所があれば良いですが、街中や住宅街では、そのような場所を見つけるのは簡単ではありません(コンビニ等の駐車場も長時間の駐車は想定していません)。場合によっては、駐車禁止と分かっていながらも路上駐車をして待機せざるを得ないトラック運転手の方もいるでしょう。このような場所で停車をして待機する場合、駐車禁止の取り締まり等に対応しなければなりませんから、運転手はトラックから離れることができないのが実際のところです。このような時間、トラック運転手は、荷積みや荷下ろしや運転はしていませんが、「トラック及び荷物の管理」という業務から解放されていないということができます。
さらに、業務内容によっては、携帯電話に急な業務連絡が入ることもあるでしょう。待機中だからと言ってこの連絡を無視して良いかというとそうではないのが実態です。
このような点からすると、トラック運転手の待機時間も、ケースによっては、トラック労働時間と認められるべきと考えられます。
実際のケース
我々が担当したケースでは、このような待機時間について、待機場所ごとに、近くに長時間トラックを停めておける休憩場所がなかったかどうかを検討したうえで、そのような休憩場所がなかった待機時間(及びそのような休憩場所がある場合にはその休憩場所に向かうまでの往復の時間)については、トラック及び荷物の管理の業務から解放されていないと判断され、このような待機時間も労働時間と認められました。
当該ケースでは、トラックにGPSと連動したデジタルタコメーター(「デジタコ」)が取り付けられており、トラックがどのエリアにどのくらいの時間停車しているかが仔細に記録されていたため、これらを一つ一つ検証し、トラックの動き、停車場所やそのときの環境について明らかにしていきました。