執筆担当 弁護士 奥田智子
広告表現にはいくつもの法規制があります。今回は、「表現」とは少し異なりますが、通信販売をする際の、広告の「表示」に関する規制についてお話します。
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)は、通信販売、訪問販売、電話勧誘販売等の「特定商取引」について、購入者の利益を保護し、取引を適正かつ円滑にすることで、国民経済の健全な発展を目的とした法律で、特定商取引に対し、取引の種類毎に、様々な規制を定めています。その中に、取引を誘引する場面で表示をしなければならない事柄、つまり、広告に表示すべき事柄について、細かな規制があります。
通信販売
通信販売といえば、最近ではインターネット通販が主流ですが、他にもカタログ冊子、新聞の折り込みチラシ、新聞広告を見て電話や郵便を利用して注文を行う販売方法などがあります。
インターネット通販の場合、販売サイトを見て商品の購入を決めます。カタログ冊子や折り込みチラシの場合はこれらの紙面を見て購入を決めます。そのため、販売サイトや紙面が「広告」となります。
通信販売の広告には、次のような内容を記載する必要があります。
①価格と送料
②支払時期と支払方法
③引渡時期
④申込期間についてルールがある場合はその旨と内容
⑤キャンセルに関する事項
⑥販売者の氏名(名称)・住所・電話番号、法人によるインターネット通販の場合は業務責任者の氏名
⑦販売代金以外に負担する金銭が有る場合はその内容と金額
⑧商品に不具合がある場合のキャンセルについて特約がある場合はその内容
⑨販売数量や販売制限などの販売条件がある場合はその内容
など
例えば、①価格と送料のうち「送料」は、「別途送料が必要です」などの表示では足りません。具体的な金額の表示が必要です。もっとも、配送先によって送料が変わり実際の金額を表示できない場合があります。その場合は、〇〇〇円~〇〇〇円など送料の上限と下限を表示したり、平均送料や配送先の地域ごとの送料を表示するなどして、具体的な送料が分かる程度に表示を行います。
また、③引渡時期は、具体的な日が記載できれば良いですが、通信販売の特性上、通常は注文日がまちまちですので、「注文から〇日以内」など期限を表示する方法があります。ATMなどによる先払いで振込みを確認してからの発送の場合も「入金確認後〇日以内」などと表示をすることができます。
⑤や⑧は一般に返品特約と呼ばれるものです。
⑤はお客様都合の返品の場合で、⑧は商品に不具合がある場合の返品に関するものです。
⑤お客様都合の返品については、法律上、商品を受け取った日から8日を経過するまでは注文者はキャンセルをする権利がありますが、通信販売の場合、訪問販売や電話勧誘販売等とは異なりクーリング・オフ制度ではなく、特約でキャンセルのルールを変更することができます。特約を付ける場合には、返品の可否、条件、送料負担の有無などを明瞭に表示する必要があります。
⑧商品に不具合がある場合の返品についても、法律とは異なるルールを定める場合には、お客様都合の返品特約とは区別して明瞭に表示をする必要があります。
通信販売という性質上、思った商品と違った、あるいは、商品を間違えた、といったケースは非常に多く、返品の可否や条件についてトラブルになることが多いため、消費者庁は「通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン」を定め、表示方法を含む具体的な指針を示しています。
特に、購入者にとって不利な内容の返品特約としたい場合には、購入者が確実に特約の内容を確認でき、きちんと理解した上で注文できるような表示とすることが、紛争予防のためにも重要です。
その他にも、取引の種類や内容によって注意すべき点があり、ガイドラインでは様々なルールが示されています。
定期購入取引(サブスク)
たとえば、少し前に、適切な表示がされていない広告が多いと問題視されてきたものとして、定期購入取引の表示方法があります。
「初回お試し価格500円(通常価格3,000円)」などと表示して、お得な価格で購入できるように謳っているものの、実際には、定期購入を前提とした取引で、2回目以降は通常価格で5回以上の継続購入が必要な取引だった、といった取引形態の商品です。定期購入を前提とした取引の場合は、支払う代金の総額を含め、全ての取引条件を正確に表示する必要があるとされています。「通信販売の申し込み段階における表示についてのガイドライン」では、ネット通販の場合では注文の最終確認画面において、紙での注文の場合は注文用紙において、定期購入契約の各回の販売価格や支払総額、各回に届く分量などを詳細にかつ明確に表示すること等を求めています。
テレビ通販
テレビ通販も通信販売です。テレビ通販では、音声と動画による広告のため、インターネット通販や紙面による通販広告とは大きく異なり、表示できる内容に制限があり、表示しなければならない事項を「ずっと表示させておく」ことができない、という問題があります。そのため、テレビ通販の場合に重要な取引内容を、どのように表示させる必要があるかについてもガイドラインは言及しています。例えば、返品に関する特約がある場合は、電話番号等の消費者が申し込みを行うことが可能な画面が表示されている間は、常に(又はその前後の一定の時間)、返品ルールを表示させることなどが求められています。
違反時の制裁、罰則
これらの広告表示義務に違反し、これによって取引の公正や購入者等の利益が著しく害されるおそれがある場合は、業務改善の指示や業務停止命令の対象となり、さらにその事実が公表されます。また、指示や命令にも違反する場合は、懲役や罰金といった刑事罰が規定されていますので、日頃から広告表示に注意を払っておく必要があります。
このように、通信販売の広告には法律上表示をしなければならない事柄がたくさんあり、また、表示方法についても細かなルールがありますので、広告をデザインする場合には、これらのルールを遵守した内容とするよう事前のリーガルチェックが必要不可欠となります。
特定商取引法に関する通達や指針は、消費者庁のホームページで公開されています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/specified_commercial_transactions/