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2024.07.26

配偶者短期居住権について

執筆担当 弁護士 鈴木伸太郎

1 配偶者短期居住権とは

  配偶者短期居住権とは、居住建物の所有者がお亡くなりになった場合に、その配偶者が居住建物を無償で使用することができる権利のことをいい、要件を満たしていれば配偶者が法律上当然に取得する権利です。これは、夫婦の一方がお亡くなりになられたときに、残された配偶者が直ちに住居から退去しなければならないとすると、配偶者にとって大きな負担となってしまうことから、このような事態を防ぐために創設された制度です。もっともこれまでも、判例上、配偶者は、特段の事情のない限り、被相続人から居住建物の使用貸借を受けていたものと推認され、一定期間は継続して無償で使用することが認められていましたが、保護されないケースもあったため、法律によって改めて、配偶者の居住権について明確に規定することにしました。なお、同制度は、令和2年4月1日から施行されていますので、被相続人の方が、令和2年4月1日以降にお亡くなりになられた場合に、同制度の適用があります。

2 内容

  配偶者短期居住権が成立するためには、以下の要件が必要となります。

① 被相続人の配偶者が、相続開始の時に、被相続人所有の建物に無償で居住していたこと

② 次のいずれの場合にもあたらないこと

  • その居住建物について配偶者居住権(民法1028条)を取得した場合
  • 相続欠格事由(民法891条)に該当する場合
  • 廃除によって相続権を失った場合

3 配偶者短期居住権の種類

  配偶者短期居住権には、1号配偶者短期居住権と2号配偶者短期居住権の2種類があります。

⑴ 1号配偶者短期居住権

  被相続人が所有する居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をし、その結果、配偶者がその居住建物を取得しなかった場合は、配偶者は、1号配偶者短期居住権を取得します。
  この場合は、これまでも判例上、配偶者は、特段の事情のない限り、被相続人から居住建物の使用貸借を受けていたものと推認され、遺産分割協議により建物の所有関係が最終的に決まるまでの間は、無償で住むことが認められていましたが(平成8年12月17日最高裁判所判決)、今回改めて配偶者の当該建物の無償使用が法律で規定されたということになります。同制度により、配偶者は、相続開始時から遺産分割により居住建物の帰属先が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、当該建物に無償で居住することができます。(民法1037条1項1号)

⑵ 2号配偶者短期居住権

  配偶者が被相続人所有の居住建物について遺産分割の当事者にならずにその結果、配偶者がその居住建物を取得しなかった場合は、配偶者は、2号配偶者短期居住権を取得します。たとえば、以下の場合を指します。

ⅰ 配偶者以外の者に対して居住建物を相続させる、遺贈する等遺言がされた場合

ⅱ 配偶者が相続放棄をした場合

ⅲ 配偶者が遺言により相続分を0と指定された場合

ⅳ 配偶者が遺言により居住建物について相続させないものとされた場合

  この場合、配偶者は、遺言等により居住建物の所有権を取得した者が、配偶者短期居住権の消滅の申し入れた日から6か月が経過する日まで、当該建物に無償で居住することができます。(民法1037条1項2号)
  この2号のような場合は、これまでの裁判例においても、配偶者は保護されておらず、相続開始後速やかに退去しなければならなくなる可能性がありましたが、今後はこのような場合でも、一定の要件の下、配偶者は無償で当該建物に居住することができます。

4 具体的事例

(CASE)
  Aさんがお亡くなりになり、Aさんの相続人は、妻のBさんと子のCさん、Dさんの3人です。Bさんは、Aさんが所有していた建物に居住しており、相続開始後も変わらずそこで生活しています。

Q1 相続人3人で遺産分割協議が続いていますが、遺産分割協議が整わない間に、Bさんが、CさんやDさんから、住居から退去を求められたり、賃料の支払いを要求されたりした場合、Bさんはこれに応じなければならないでしょうか。

A1 このケースは、Bさんが1号配偶者短期居住権を行使できる場面となります。Bさんは、遺産分割協議によって当該居住建物の帰属者が決定するまでの間、無償で当該居住建物に住み続けることができます。なお、仮に、遺産分割協議が早期に成立したという場合でも、相続が開始してから6か月の間は、無償で当該居住建物に住み続けることができます(最低6か月の居住権が保障されているということになります)。なお、このケースについては、従前も、判例により一定の場合には無償での居住が認められていましたが、同制度の適用により、事案によることなく、配偶者に無償での居住が認められることになりました。

Q2 Aさんは遺言書を残しており、Aさんの遺言には、Bさんが居住しているAさん所有の建物は、Aさんの知人であるEさんに遺贈すると記載されていました。この場合、Eさんが住居からの退去を求めた場合に、Bさんはこれに応じなければならないでしょうか。

A2 このケースは、Bさんが2号配偶者居住権を行使できる場面となります。Bさんは、EさんがBさんに対して、配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月が経過するまでは、無償で当該居住建物に住み続けることができます。すなわち、仮にEさんが、Aさんが亡くなって2年経過した後に、配偶者短期居住権の消滅の申し入れをしたということであれば、Bさんは、Aさんがお亡くなりになってから2年6か月の間、無償で当該居住建物に住み続けることができます。

Q3 Bさんが相続放棄をした場合は、Bさんは、速やかに住居を退去しなければならないのでしょうか。

A3 このケースも、Bさんが2号配偶者居住権を行使できる場面となり、当該建物を取得した者がBさんに配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月が経過するまでは、Bさんは無償で当該居住建物に住み続けることができます。

5 まとめ

  配偶者の方がお亡くなりになられたとき、ただでさえ気持ちの整理がつかない状況の中、場合によっては今まで住み続けてきた家を速やかに出て行かなければならないのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。配偶者短期居住権の制度は、そのような配偶者の方の生活を保護するために創設された重要な制度です。しかし、配偶者短期居住権は、新しい制度であるため、未だ広く周知されているとは言い難く、また、自分が対象になるものかどうかの判断も難しいと思います。当事務所では、このような新たな法改正にも対応できるよう適切な準備を整えております。