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2024.06.10

「コンパクトM&A」により同業他社の事業を承継した事案

執筆担当 弁護士 三木憲明

  A社は、年商30億円ほどのオーナー企業です。予てからX社との取引(商品の製造・販売)を切望していましたが、なかなかきっかけがつかめずにいました。

  B社は、X社との取引(商品の製造・販売)を長年続けてきました。X社との取引は、決して赤字ではないのですが、諸々の事情により撤退したいと考えるようになっていました。

  A社とB社はもともと取引関係にあったところ、X社と取引したいA社とX社との取引から撤退したいB社の思惑・利害が一致し、B社のX社関連事業をA社が譲り受けることとなりました。

  結果的に事業譲渡価格は数千万円となりました。

  この規模のM&Aでは、重厚なデューデリ等を実施するとコスト的に見合わないことも多く、A社としては当初から可能な限りM&A費用を圧縮しつつ、相応のリスクヘッジも行いたいとの希望を持っていました。

  そこで、A社の顧問弁護士である私は、A社顧問税理士の協力を得つつ、公認会計士による財務・会計デューデリは省略して、本件を進めることとしました。このような手法をとることができたのは、A社代表者が会計に明るい方であったため、ご自身でB社の会計帳簿などもチェックされ、簡易な財務・会計デューデリができたこと、A社と私の長年の信頼関係から、コストを抑えつつも必要なリスクヘッジを行うための過不足ないデューデリのスコープ設定が可能であったことが大きかったと思います。

  M&Aの規模にかかわらず常に重厚なデューデリを行わなければならないとすると、「過ぎたるは及ばざるが如し」となってしまいかねません。他方で、思い切ったスコープの絞り込みを行うと、リスクの見落としが起こりはしないかとの懸念が生じることも現実です。そのバランスの妙が小規模M&Aのポイントであり、弁護士としてはそこにどうコミットできるかが重要なスキルということになります。弁護士としてなすべきことは、法務領域での固有問題についての検討をしっかり行うことはもちろん、これに限らず会計・税務・ビジネス等の関連領域に関する(必ずしも高度な専門性を有さずとも)一定の知識を前提に、やや鳥瞰的に案件全体を眺め、潜在リスクのありかやその対処法について思案を巡らせることです。リスクをゼロにすることは極めて困難ですが、大事なのはそのことではなく、可能な限りのリスク低減策を講じつつ、それでも残るリスクについて、当該リスクの発現可能性と発現した場合のインパクトを相関的・総合的に見積もることです。つまり、リスク・コントロールの観点こそが重要です。

  本件では、こうした点につき、A社代表者との信頼関係を基礎として、しっかりとした共通認識を形成することができました。

  なお、余談ですが、本件では事業譲渡に加えて(というよりもその前提として)B社がC社を新設し、A社がC社の株式を譲り受け、その後にC社がA社からX社関連事業の譲渡を受けるという、やや複雑なスキームがとられました。本来であれば、B社がC社に会社分割(新設分割)によりX社関連事業を移し、その後にA社がC社の株式を譲り受けるといった方法がとられるはずだったのですが、不測の事態によりこれが叶わず、急遽方法の変更を余儀なくされたというのが実情でした(いずれにしても、X社はC社を取引相手として認めるとの前提は確保されていました)。