執筆担当 弁護士 鈴木伸太郎
1 はじめに
part1では、遺言の種類やその作成のポイントなど形式的な部分について紹介をしました。以下では、どのような場合に、どのような遺言内容にすることができるのか、ケースに基づいて紹介していきたいと思います。
2 問題となるケース
【CASE1】
遺言者Aには、妻Bがおり、子どもは長女C、次女Dがいます。長女C、次女Dがそれぞれ自立し実家を出て以降、Aは、長年Bと二人で暮らしています。長女は、よく実家に来てくれていますが、次女は、以前にAと喧嘩をしてから、長年一切連絡もありません。Aの所有する財産は、価値が2500万円の土地建物(AとBの自宅)と預貯金が1500万円です。
⑴ この場合、仮に遺言なくAがお亡くなりになった場合、どのようなことが起こるでしょうか。
遺言がない場合は、誰がどの財産を相続するかを相続人間で協議して決めます(遺産分割協議)。この場合、疎遠であったDにも1/4の法定相続分がありますので、仮にAが遺産は主にはBとCで分けて欲しいと思っていたとしても、遺言がなければ、Dも1/4の相続分を主張することができることになります。
また、Bが自宅である不動産の取得を希望した場合、自宅の価値は、Bの法定相続分(1/2)である2000万円を超えています。Bが法定相続分を超える財産を取得することにC,Dが承諾すれば問題ありませんが、合意できなければ自宅の取得は簡単ではありません。Bが代償金をC,Dに支払って自宅を取得する方法もありますが(代償分割といいます。)、そのようなお金を捻出できない場合、Bが単独取得することを諦めてB,C,Dの共有とし、C,Dに家賃を支払って住み続けたり、そもそも取得を断念しなければならなくなることもあります。
このように、遺言がなければ、Aの思いとは異なる結果になってしまうこともありますし、自分の配偶者や子どもたちの間で紛争になるリスクもあります。そのような事態を回避するために、遺言を作成することが有効な手段となりえます。
⑵ 例えば、自宅をBに遺したい場合には、不動産はBに相続させ、預貯金をC,Dの2人に相続させる遺言とすることが考えられます。預貯金の分け方についても、C,Dを同額とするのではなく、実家によく来て身の回りの世話をしてくれているCには1000万円、Dには500万円を相続させる、といった形で差をつける遺言も考えられますし、Bの生活費も考えて、預貯金をB,C,Dで500万円ずつ取得させるといった遺言も考えられます。
このように、遺言を利用することによって、相続に関する自らの希望を反映させることができますし、相続人間で遺産の分け方について協議をする必要がなくなり無用な紛争を避けられる場合もあります。
なお、全財産をBやCに相続させ、Dには全く相続させないといった内容の遺言も可能ですが、このような一部の法定相続人の相続分を極端に少なくする内容の遺言は、Part3で説明する「遺留分」の侵害となる可能性があり、後に紛争となる可能性をどう考えるか、慎重な検討が必要となります。
【CASE2】
ここで少し他のケースも見てみましょう。
遺言者Aには、配偶者や子はおらず、両親も既に亡くなっています。Aの法定相続人としては、姉Bがいますが、Aは姉Bの子どもである甥Cを我が子のように思っています。
⑴ この場合、AがCに財産を残したいと思っていても、Cは法定相続人ではありませんので、何もしなければCに財産を遺すことはできません。しかし、この場合に、AがCに財産を遺贈するという遺言を作成しておけば、Aの思いを実現することができます。
⑵ このほかにも、例えば、Aに兄弟がおらず、法定相続人が誰もいないという場合(もしくは、きょうだいがいても、疎遠であり、彼らが相続放棄をした場合などは法定相続人がいない状態になります)は、Aの財産は、最終的に国庫に帰属されることになります。
このような場合に、もし誰か縁があった人に財産を渡したいと考えているのであれば、やはり遺言を作成しておくことが大切です。
3 まとめ
以上で紹介したものは、とてもシンプルなケースですが、細かく遺産の分け方を決めたいとき、その内容は、非常に複雑になることがあります。内容が不十分であると、そのとおりに分割されなくなる可能性もありますし、遺言を作成したものの、遺産内容の記載漏れによって、結局、相続人間で遺産分割協議が必要になってしまう場合もあります。
遺言を作成するにあたっては、遺言の内容やその記載方法について慎重に検討する必要がありますので、弁護士に相談することをおすすめします。
4 次回part3の予告(遺留分について)
例えば、CASE1において、Aが妻Bに遺言で全財産を渡すとした場合、長女Cや次女Dは、Aの財産について一切権利がないということになるかというと実はそうではありません。CやDにも、Aの財産につき、一定の割合の金銭を、Bに請求する権利があり、これを遺留分といいます(具体的には、遺留分侵害額請求権といいます)。
次回、part3では、この遺留分の内容と遺留分による争いを避けるための遺言の記載方法について、見ていきたいと思います。