執筆担当 弁護士 保木祥史
Part1では、弁護士に規程整備を依頼するメリットについてまとめました。Part2では、このようなメリットが表れた具体例として、私が規程整備のお手伝いをした会社(A社)の実例をご紹介します。
A社は、設立から20年程経ち、これまで大きなトラブルはないものの、小さな困りごとも出てくる中で、「足元を固めたい」ということで、総合的な規程整備の依頼をいただきました。
1 ヒアリングと作業スケジュール
まず、A社の状況についてヒアリングを行います。
会社の組織図、各部署の業務内容、従業員の勤怠管理、取引(勧誘から契約、履行まで)の流れ、顧客管理の方法等を1つ1つヒアリングし、会社の「営み」をできるだけ具体的に把握します。あわせて、A社の困りごとをヒアリングし、現場が感じている解決課題も把握します。
ヒアリング結果を踏まえ、どのような規程を、どのような優先順位で、どの程度詳細に整備していくかを決め、これを一覧表にしてA社と共有し、作業を進めていきました。
2 取引関係規程
A社は訪問販売業を営んでいますが、訪問販売には、特定商取引法上、勧誘方法にさまざまなルールや禁止事項があります。A社の販売マニュアルを見ると、営業トークやノウハウは記載されているものの、氏名等の明示(法3条)、勧誘時の禁止行為(法6条)など特商法上のルールが明確にはされていませんでした。A社においては、これまで勧誘方法を巡って大きなトラブルは起きていませんでしたが、もし特商法違反の勧誘が起きてしまうと、契約が無効になって実損が生じるだけでなく、行政の指導等もありえ、事業に与える影響が大きいので、この点のケアは優先度が高いと判断し、弁護士で追加マニュアル(やってはいけないことリスト)を作成してお渡しをしました。
下請業者等との関係も、顧客との関係に劣らず、会社の損益に影響しますので、優先順位を高くし、それぞれとの間の契約関係に問題はないかチェックし、不足があれば作成するなどしました。
従業員との関係も、もちろん優先度の高い項目です。もっとも、こちらは、A社に顧問社労士がいらっしゃったため、我々のヒアリング結果を顧問社労士と共有し、ブラッシュアップをしていただきました。
3 プライバシーポリシー・個人情報保護規程
顧客に示すプライバシーポリシーや、社内向けの個人情報保護規程は、個人情報保護法上作成が求められていますので、整備をする必要性は高いのですが、直ちに取引関係に影響が及ぶ可能性は少ないことから、上記2の取引関係規程の作成をより優先し、これらを整備した後に着手しました。
一方で、規程の中身については、ヒアリングによって、ファイルの管理方法、顧客対応などに具体的な困りごとを感じている様子があったため、定型的なものの作成にとどまらず、会社の実情をしっかりと踏まえたオーダーメイドの規程を作成しました。
4 ハラスメント防止規程・育児介護休業規程
これらの規程は、法律上作成が求められているものであり、やはり、作成自体は必須ですが、それほど具体的な困りごとを感じている様子がなかったため、ひとまずは、顧問社労士に依頼して作成の負担の少ない定型的なものを導入し、今後必要に応じてブラッシュアップをしていくこととしました。
5 文書管理・保存規程、職制規程、稟議規程など
これらについては、法令上規程の整備が求められているわけでもありませんし、税務関係書類等の重要な書類については法令の保存期間を遵守する運用がとられていましたので、現時点での規程整備は、望ましいことではあるものの、今後の検討課題としました。
このように、綿密なヒアリングをし、さまざまな観点から優先順位をつけることによって、法令も遵守しつつ、できる限り費用対効果の高い規程の整備が可能となります。