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2026.03.06

フリーランス・事業間取引適正化法の施行にあたって

執筆担当 弁護士 鈴木 伸太郎

 1 フリーランス・事業者間取引適正化法とは

  2024年11月1日より、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化法)が施行されました。本法は、雇用契約ではなく業務委託契約に基づき個人として働くフリーランスと発注事業者との間に存在し得る交渉力の格差に着目し、取引の適正化と就業環境の整備を図ることを目的とするものです。単なる契約法規ではなく、募集段階から契約終了時に至るまで、企業実務全体に横断的な影響を及ぼす点に大きな特徴があります。

 

2 本法の対象となる事業者と取引

  「特定受託事業者(フリーランス)」とは、業務委託の相手方である事業者のうち、①個人であって従業員を使用しないもの、または②法人であって代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないものをいいます(第2条第1項)。すなわち、いわゆる個人事業主のみならず、役員が一人で従業員を雇用していない一人会社等も含まれます。

  他方で「業務委託事業者(発注事業者)」とは、フリーランスに対して業務委託を行う事業者を指します(第2条第5項・第6項)。また、この中でも、「特定業務委託事業者」とは、個人であって従業員を使用するもの、もしくは、法人であって二人以上の役員があり、又は従業員を使用するものをいいます。本法では、業務委託事業者全体を対象としている規制と、特定委託事業者のみを対象としている規制があります。

  なお、本法は業種の限定を設けておらず、IT開発、デザイン制作、建設、コンサルティング、翻訳、執筆、運送等、多様な業務委託が対象となります。消費者との取引は対象外ですが、事業者間取引である限り、規模の大小を問わず適用されることになります。

 

3 法律の主な内容と実務上の留意点

 取引条件の明示義務(第3条)

  業務委託を行った場合、業務委託事業者は、直ちに書面又は電磁的方法により、取引条件を明示しなければなりません。明示すべき事項は、①発注事業者および特定受託事業者の名称、②業務委託をした日、③給付の内容、④給付を受領し又は役務の提供を受ける期日、⑤給付を受領し又は役務の提供を受ける場所、⑥給付内容について検査をする場合には検査完了期日、⑦報酬の額および支払期日、⑧金銭以外の方法で報酬を支払う場合にはその支払方法に関する事項です(第3条第1項)。

  これは、口頭による合意のみでは足りず、電子メールや契約書等により客観的に確認可能な形で残すことが求められます。

 報酬支払義務(第4条)

  特定業務委託事業者は、フリーランスから給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、当該支払期日までに報酬を支払わなければなりません。支払期日を定めなかった場合や、給付受領日から60日を超える期日を定めた場合には、法律上、給付を受領した日又は給付受領日から起算して60日を経過した日が支払期日とみなされることとなります。

⑶ 契約内容に関する禁止行為(第5条)

  特定業務委託事業者が特定受託事業者に対して1か月以上継続して業務委託を行っている場合には、特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、受領拒否、報酬の減額、返品、通常の対価に比して著しく低い報酬額の決定、自己の指定する物品又は役務の購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、給付内容の変更又はやり直しの強制といった行為をしてはならないとされています。

⑷ 募集情報の的確表示義務(第12条)

  特定業務委託事業者は、新聞、雑誌、インターネット上の広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法により、フリーランスの募集に関する情報を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、かつ、その内容を正確かつ最新の内容に保たなければなりません(第12条第1項・第2項)。
  ここで的確に表示しなければならない募集情報としては、以下のものが挙げられます。

①業務の内容

②業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項

③報酬に関する事項(報酬額、支払期日、支払方法、交通費・材料費等の必要経費の負担関係を含みます。)

④契約の解除又は期間満了後に更新しない場合の条件に関する事項

⑤募集を行う者の名称その他当該者を特定するために必要な事項

  特定業務委託事業者は、以上の情報を具体的に表示し、フリーランスが募集情報に関して誤った認識にならないようにすることが求められます。

 育児や介護との両立への配慮義務(第13条)

  特定業務委託事業者は、6か月以上継続して行う業務委託について、その相手方であるフリーランスから申出があった場合には、当該フリーランスが、妊娠、出産、育児又は介護と両立しつつ業務に従事できるよう、業務時間の調整、納期の配慮その他の必要な配慮をしなければなりません(第13条第1項)。

  また、6か月未満の業務委託の場合であっても、同様の申出があったときは、必要な配慮をするよう努めなければならないとされています(同条第2項)。

 ハラスメント対策体制整備義務(第14条)

  特定業務委託事業者は、業務委託に関して行われる言動によりフリーランスの就業環境が害されることのないよう、相談窓口の設置、苦情への適切な対応その他必要な体制の整備及び措置を講じなければなりません(第14条第1項)。対象となる言動には、性的な言動、妊娠・出産等に関する言動、取引上の優越的な関係を背景として業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われる言動が含まれます。さらに、フリーランスが相談をしたこと等を理由として契約解除その他の不利益取扱いをすることは禁止されています(同条第2項)。

 中途解約や更新拒絶に関する30日前予告義務(第16条)

  特定業務委託事業者は、6か月以上継続して行う業務委託について解除をし、又は期間満了後に更新しないこととするときは、少なくとも30日前までにその旨を予告しなければなりません(第16条第1項)。また、フリーランスが解除又は不更新の理由の開示を請求した場合には、発注事業者は、遅滞なく当該理由を開示しなければならないとされています(同条第2項)。

  

4 法律違反の効果について

  発注事業者による本法違反行為があった場合には、フリーランスは、所轄行政庁に対してその事実を申し出ることができます(第6条第1項)。そして、発注事業者は、フリーランスが当該申出を行ったことを理由として、取引の停止、数量の削減その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています(第6条第3項)。
  行政庁は、当該申出の内容に基づき事実関係の調査を行い、本法違反の事実が認められる場合には、まず当該発注事業者に対して助言又は指導を行い、必要に応じて勧告を行うことができます(第22条)。さらに、行政庁は、発注事業者が当該勧告に従わない場合には、違反行為の停止その他必要な措置を命ずる命令を発することができます(第8条・第18条)。
  また、行政庁は、前記命令をした場合には、当該発注事業者の名称及び違反内容を公表することができます(第9条・第19条)。この公表措置は、直接的な金銭的制裁ではありませんが、企業の社会的評価、ブランド価値、採用活動及び取引関係等に重大な影響を及ぼすものと考えられます。
  加えて、発注事業者が前記命令に違反した場合には、当該発注事業者又はその行為者には罰金刑が科されることが規定されています(第24条〜第26条)。

  以上のように、本法は、申出制度、行政指導、勧告、命令、公表及び罰則という段階的な措置体系を設けており、発注事業者には、事後対応のみならず、事前の体制整備及び予防的なコンプライアンス体制の構築が強く求められるといえます。

 

5 本法適用後1年間の動き

  本法が適用されて1年が経過し、実際に法律に基づく指導があった事例として、以下のものが公正取引委員会より公表されています(主に違反が多かったものとして、放送業、広告業の事例を中心に公表されています)。

 ⑴ 取引条件の明示義務(第3条)の違反

①ラジオ放送番組の制作、出演等、ウェブサイトの制作等の委託取引において、業務委託をする際に取引条件を明示していなかった。

②アニメーションの作画等、原稿作成の委託取引において、一定共通の取引条件(共通事項)との関連性を個々の発注時期に明示していなかった。

③番組、CM制作、画像加工やイラスト作成等の委託取引において、譲り受ける知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明示していなかった。

⑵ 報酬支払義務(第4条)の違反

①デザイン作成の委託取引において、請求書を提出した日を基準に支払期日を設定していた。

②ロケ撮影及び映像編集、写真撮影等の委託取引において、自社の事務処理遅れを理由に、支払期日より後に報酬を支払っていた。

③広告物の制作等の委託取引において、受入検査に合格した日を基準に支払期日を設定していた。

⑶ 禁止行為(第5条)の違反について

①番組の演出等の委託取引において、自社の予算や規定を基準にして報酬の額を一方的に決定した。

②台本や情報誌の原稿作成等の委託取引において、給付の受領後、当該給付について追加的な作業を行わせ、当該作業の費用負担をせず、費用の負担 が生じたかどうかも確認していなかった。

③番組情報誌の原稿作成等の委託取引において、金銭の提供を要請し、その提供を受けていた。

④ポスター制作等の委託取引において、コスト上昇を理由とした報酬引き上げ要請に対し、 理由を記録に残る方法で回答することなく従来どおりの報酬の額に据え置いた。

⑤グラフィックデザインの委託取引において、自社の予算や規定を基準にして報酬の額を一方的に決定した。

⑥デザインの制作の委託取引において、給付の内容を取り消したにもかかわらず、それに伴う不利益が生じたかどうかを確認しなかった。

 

6 まとめ

  本法の施行により、フリーランスとの契約にあたっては、取引条件の明示や報酬支払、ハラスメント対策といった義務を遵守し、適正なコンプライアンス体制を構築することがより一層求められることになります。事業者の方は、募集から契約終了に至る各プロセスにおいて、法に適合したコンプライアンス体制を構築できているか今一度確認する必要があるといえるでしょう。その際には、弁護士による専門的な視点で契約内容を確認することも有効であるかと思います。