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2025.10.28

個人事業主の自己破産後の事業継続可能性について

執筆担当 弁護士 鈴木伸太郎

1 はじめに

 近年、コロナ禍の影響もあり、事業の継続が困難となり、自己破産を選択せざるを得なくなくなるというケースが増えてきています。その場合、事業が回らなくなり自己破産に至るという場合がほとんどですから、基本的には、事業は廃業することになります。しかし、中には自己破産をしたうえで、同じ事業を継続することができないかというご相談を受けることがあります。

 以下では、個人事業主の方が、自己破産後に事業を継続する可能性について、ポイントを絞って検討していきたいと思います。

2 賃貸物件を借りて事業を行っている場合

⑴ 個人事業主の方の中には、店舗や事業所を借りて、事業を営んでいる方が多くいらっしゃるかと思います。その場合、破産しても同じ店舗や事業所を継続して借りることができるのかという問題があります。

 まず、賃料を滞納していた場合は、滞納した賃料債権も破産債権になりますので、貸主としては、賃貸借契約を解除することになるでしょう。そうすると、同じ場所で事業を継続することは難しいと言えます。

 では、賃料の滞納がない場合はどうでしょうか。この点、賃貸借契約の継続の判断は、破産管財人に委ねられます(破産手続開始決定後は、破産者の全ての財産の管理権限が破産管財人に移り、契約上の地位も基本的には破産管財人に移ります)が、開始決定後の賃料は財団債権となることや、敷金や保証金等がある場合はこれを回収して破産財団とする必要がありますので、通常、破産管財人は、事業所の賃貸借契約を解除することがほとんどであると考えます。そのため、同じ場所で事業を継続することは難しい場合が多いと言えます。

⑵ しかし、例えば、借家である自宅で事業を行っており、家賃の滞納がない場合は、賃貸借契約を解除する必要がないことがあります(普通の住まいであれば、生活するために必要なものであり、賃貸借契約を解除することは求められないことが一般的です。)。また、縁故者が賃貸物件を本人に代わって借りており、そこで事業を行っているような場合は、破産者本人の契約ではありませんので、契約を継続することが可能な場合があります。

 3 取引先との関係

 多くのケースでは、自己破産に至る過程で買掛金の滞納が発生すると思われます。このような場合、破産後は、取引先からの信用はなくなるので、取引を継続することは難しいものと考えられます。

 なお、自己破産をする場合は、特定の債権者のみに債務を弁済することは禁止されています。したがって、例えば、長年の付き合いがある買掛先に迷惑をかけたくないという思いがあっても、あるいは事業の継続に必要な取引先があったとしても、それらの取引先だけに支払いをするということはできません。そうすると、取引先としては売掛金を回収できなくなるわけですから、今後も取引を継続してくれるかというと、やはり難しいものと考えられます。

⑵ しかし一方で、事業に必要な仕入れが掛け取引ではない場合や、特定の仕入先に依存していない場合(例えば、量販店で仕入をしているなど)であれば、破産後も仕入に支障がない場合があります。

 4 自己破産後の借入れや融資について

 自己破産後は、自己破産をしたという情報が信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に記録されますので、金融機関の取扱いにもよりますが破産手続き終了後、概ね5年~10年間、新たな借入れや融資を受けることは難しくなります。そうすると、借入を前提としていた事業を行っていた場合は、事業を継続することは難しいものと考えられます。

⑵ もっとも、新規の借入れを必要としない事業の場合は、事業継続を考えることができるでしょう。

 5 さいごに

 自己破産後、再度同じ事業を継続することは、以上のとおり、基本的には難しいことが多いと思われますが、場合によっては事業を継続できる可能性もあります。また、事業が継続できなくとも、自己破産後に新たに事業を開始される方もいらっしゃいます。

 自己破産をするには、事前の準備やタイミングの選定など、専門的な知識を踏まえた事前準備が必要となりますので、事業継続が困難になりこのまま続けるべきなのかどうか悩んでおられる方は、早目に弁護士に相談されることをおすすめします。